無添くら寿司の裁判が話題になっているので,少し説明します。
くら寿司が相手に何を求めていたのかというと,詳細はわかりませんが,「くら寿司についてインターネットでコメントした人の情報を開示してほしい」ということです。
なぜ,このようなことを求めるのかは断定できませんが,推測するに,くら寿司は,コメントをした人の情報開示を受けた上で,今後そのようなコメントをされないように,コメントをした人に対して,見せしめ的に名誉毀損として訴えるつもりだったのかもしれません。
さて,このような開示を求めるための要件は,要するに,そのコメントの「① 権利侵害が明白」で,かつ,「② 開示を受ける正当な理由がある」ことが必要です(プロバイダ責任制限法4条1項)。
このうち,①権利侵害があるよ,というためには,書き込みが権利を侵害していることを主張しなければなりません。具体的には,くら寿司の社会的な評価を下げる行為として違法なんだと言う必要があります。
そして,問題となった書き込みは,「ここは無添くらなどと標榜(ひょうぼう)するが、何が無添なのか書かれていない。揚げ油は何なのか、シリコーンは入っているのか。果糖ブドウ糖は入っているのか。化学調味料なしと言っているだけ。イカサマくさい。本当のところを書けよ。市販の中国産ウナギのタレは必ず果糖ブドウ糖が入っている。自分に都合のよいことしか書かれていない」というものです(産経新聞の記事(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170412-00000553-san-soci)から引用)。
これに対して,裁判所は,これは社会的な評価を下げるものではないよ,だから違法じゃないよ,と言ったということです。
つまり,違法じゃないということは,「① 権利侵害が明白」ではないということです。そのために,裁判所は,くら寿司の負け,と判断したわけです。
なお,裁判所は,補足的に,社会的な評価を下げているとしても,違法じゃない例外的な場合に当たることまで教えてくれています。
この人の書き込みは,事実に対する評価であり,意見です。そして,このような意見については,「(1)公益目的のあるもの」で,「(2)公共の利害に関係するもの」で,「(3)意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実」で,かつ,「(4)意見ないし論評としての域を逸脱したものでない」ならば,違法ではないとされています。いわゆる「公正な論評の法理」(最判平成9年9月9日)というものです。
前記産経新聞の記事では,⑴と⑶にしか触れていませんが,違法でないとしている以上,上記例外的な場合の要件を満たしていると言っているということでしょう。