弁護士 大野 薫のコラム

2017.07.25更新

大野です。最近暑くてつらいですね。

さて,高須クリニックの高須克哉院長が大西議員らを名誉毀損で訴えた件について話題になっているのでコメントします。

 

1.被告らが責任を負うかどうか

まず,本件では,そもそも被告らが責任を負うのかどうか、ということが問題となります。

大西議員と国を訴えたことについてですが,最高裁が平成9年9月9日の判決*1で,
① 国会議員は,国会議員としての職務としてした行為については,違法でも責任を負わない
② 国は,「国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情」がない限り,責任を負わない。
としています。そして,今回問題となっている大西議員の発言は,国会内で国会議員としてしたものですし,話の流れとして,(不適切であるとしても)国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いているとまでは言えないように思います。そのため,最高裁の判例にしたがうと,高須院長が勝訴することは難しいのではないかと考えています。

他方,蓮舫代表と民進党については,どのような根拠で訴えているのかわからないのでなにも言えませんが,大西議員も国も責任を負わないのに,蓮舫代表と民進党が責任を負うというのはおかしいので,やはりこれも責任を問うのは難しいと思います。

このように,最高裁の判例に従うと,(可哀想だとは思いますが)高須院長の敗訴は免れないのではないかと思います。そして,そのことをわかっているからこそ,高須院長は最高裁まで徹底的に争うという趣旨のご発言をされているのではないかなと思います。ただ,最高裁が過去の判例をひっくり返すのは,不当であるという議論が詰められてきて,相当反対説が有力になってこないと難しいです。そして,この平成9年の最高裁判決が不当であるという意見が通説になっているとは言えません。したがって,仮に最高裁まで争ったとしても,認められないのではないかと思います。

 

2.発言内容が名誉毀損に当たるかどうか

次に,仮に最高裁の判例がひっくり返って責任を負うとしても,大西議員の発言が名誉毀損にあたるかどうかについても,検討の必要があります。

大西議員の発言は,高須クリニックの広告が「陳腐」だというものであり,いわゆる意見・論評です。そして,意見・論評については,これも(別の)平成9年9月9日の最高裁の判例で,
① 公共の利害にかかる事実に係り,
② その目的が専ら公益を図ることであり,
③ 右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実である
ならば,原則として名誉毀損としての不法行為にはならないとされています。
本件では,
① 医療広告の妥当性という公共の利害にかかる事実に係り,
② 大西議員の発言の目的が適切な医療広告を実現するという専ら公益を図ることであり,
③ 「イエス高須クリニック」と言うだけのCMが流れていることは,右意見ないし論評の前提としている事実であり,重要な部分について真実である
と言えます
したがって,そもそも大西議員の発言が名誉毀損にあたるとは言えないであろうと思います。
なお,この検討の前提となる最高裁判例がひっくり返る可能性が低いことは前の最高裁判例同様です。

 

3.蓮舫代表の戸籍謄本取得目的?

なお,ネットを見ていると,この訴訟を提起することで蓮舫民進党代表の戸籍謄本を取得できる,これが真の目的であるなどとの記載も見られますが,誤っているように思うので,合わせてコメントします。

たしかに,弁護士は,必要がある場合には紛争の相手方の戸籍謄本を取得することが可能です。しかし,取得できるのは,業務遂行上必要な範囲に限定されています。そして,今回は,蓮舫代表の戸籍謄本とは関係のない訴訟ですから,取得できません。その上,うそをついて関係のない戸籍謄本を取得した弁護士は,懲戒されてしまう可能性が高いです。懲戒されるリスクがあってなお取得する弁護士はいません。したがって,そもそも受任した弁護士は戸籍謄本を取得しないと思います。

また,仮に弁護士が何らかの理屈を付けて取得することができると考えたとしても,訴訟を起こす必要はありません。訴訟を起こさなくても業務の遂行に必要な範囲であれば,弁護士は戸籍謄本を取得できます。そのため,真の目的が戸籍謄本の取得であるとは考えられません。

 

以上,雑駁ですが,簡単に意見を述べさせていただきました。ご参考になれば幸いです。

(関係ないのですが,弁護士は「雑駁」「平仄」「忖度」等のむずかしい言葉が好きみたいです。)

*1 判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/530/052530_hanrei.pdf

 

投稿者: 弁護士大野薫